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心筋梗塞発症モデルラットへの 大気圧プラズマ吸入法による心疾患(心筋梗塞)の緩和治療に成功

〜血管を拡張し、血圧降下と血流量増加を立証〜


 東京都市大学(東京都世田谷区 学長:北澤宏一)工学部医用工学科の平田孝道、森 晃、筒井千尋の研究グループでは、ヘリウムガスを用いて発生させた大気圧プラズマを小動物(モデルラット)に吸入させることによって、狭心症や心筋梗塞などの心疾患における緩和治療に成功しました。

 今回の緩和治療の成功は、プラズマ照射領域近傍における中性分子、イオン種、活性種(ラジカル種)を小動物(モデルラット)に吸入させることで、血管拡張に起因した血圧降下と血流量増加が生じることを立証したことによるものです。本手法によって、特に血管の拡張・収縮と密接な関係がある心筋梗塞の緩和治療の効果が期待できるものと考えられます。また、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患治療のみならず、低酸素脳症や脳梗塞などの脳疾患、原発性肺高圧症や新生児遷延性肺高血圧などの呼吸器疾患にも効果が期待できるものと考えられます。
なお、本研究の成果は、英国物理学会出版局のオンラインジャーナル「IOP science」に2014年5月30日に公表されています。

 平田孝道らの研究グループは、マイクロスポット大気圧プラズマ源を用いた生体組織・細胞への直接照射を行い、再生治療も視野に入れた“プラズマ医療”に関するメカニズム解明及び医療応用を目的とした評価・分析を行っています。“プラズマ医療”とはプラズマ を利用して人の細胞を直接治療する方法のことです。プラズマから生成される熱、紫外線、イオン種、並びに化学活性種を利用した治療は乾式で非接触という特徴を有するため、皮膚疾患、創傷治癒、ガン治療などの次世代の革新的治療法として注目を集めています。

 なお、この研究は文部科学省の科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)『プラズマによる細胞/組織の活性化・改質及び再生医療への応用展開』の一環として実施されたものです。

【プラズマ医療のメリット】
 ・真空装置を使用しないために構造が単純
 ・プラズマ中のガス温度が室温に近いため、生体組織への直接照射が可能
 ・プラズマエネルギーを自由に変えることができるため、単一装置による多角的治療が可能

【今後の展開】
本実験にて得られた一酸化窒素(NO)に起因した血管拡張による血圧降下は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患、並びに原発性肺高圧症や新生児遷延性肺高血圧などの呼吸器疾患の治療に有効であるのみならず、細胞代謝の促進にも大きく寄与していることから、再生医療への応用も視野に入れた研究の展開を考えています。今後は、より大型の動物と培養細胞を用いた実験にて得られたデータを基に、更なる安全性を確立させると同時に、ヒトへの臨床応用を目指していきます。

【社会背景】
一般的にプラズマは、真空容器内の気体ガスを一定の減圧状態に保ち、電極間に印加 した直流電圧や高周波電圧、又はマイクロ波などにより加速された電子とガス分子との衝突を利用して発生させますが、「新規プラズマ」の発生は、大気圧下の液相中や気相―液相界面反応を利用しています。中でも「大気圧プラズマ」は、真空装置が不要であるために、装置本体や処理に要するコストが低く、また連続処理が可能であるために生産性が高いなどの特徴があります。
近年、表面改質及び有害物質分解のみならず、「バクテリオファージ ,バクテリア,並びに大腸菌の不活性を含む滅菌・殺菌に関する研究」には、ナノテクノロジー・バイオテクノロジー(生物工学・生命工学)・メディカルサイエンス(医学)の多面性を必須とする複合新領域の開拓・発展が必要不可欠であるといえます。しかし、プラズマ科学、デバイス工学、表面・界面化学、生体分子学などの学際的分野を駆使した研究、特に医療・バイオに関するそのような複合的な展開は、欧米に比べて遅れがあるというのが現状です。このような背景のもとに、本研究を進めることは今後の医工学分野の更なる進展に大きく寄与できるものと考えています。なお、「浮遊電極型誘電体バリア放電を用いた皮膚の改質・再生」、「マイクロ放電プラズマを用いたバクテリアの不活化」、もしくは「プラズマ方式分子導入装置を用いた細胞及び組織への遺伝子,蛋白質,医薬系低分子化合物の導入」などは、プラズマを医療に応用した事例として注目されています。

【論文概要】
プラズマ発生装置本体を含めた実験の概要図を図1に示します。プラズマ発生装置は、ガラス キャピラリー内にタングステン線を導入し、外部に筒状グランド電極を設置した同軸状構造です。プラズマ発生条件は、印加電圧:8 kVpp、周波数:3 kHz、ヘリウム(He)ガス流量:1 ㍑/分、プラズマ照射時間:90 秒で行いました。イオン種及びラジカル種を含むプラズマは、ガラスキャピラリー先端に接続したシリコンチューブ(長さ:L = 1000 mm)を介して小動物の肺に吸入します。実験に用いた小動物はラットであり、ガス麻酔による無意識下状態にて実験を行いました。 
また、カテーテル型一酸化窒素(NO)センサを腹部大動脈に直接挿入し、プラズマを直接肺に吸入した時の血液中のNO濃度を測定しました。血管内圧(血圧)は、カテーテル末端に接続した血圧測定用マイクロ圧力センサにより測定しました。更に、心筋梗塞モデルラットにおける血流量の変動については、経皮的 動脈血酸素飽和度(SpO2,動脈血中の酸素と結合しているヘモグロビンの割合)を計測して評価しました。実験に使用した心筋梗塞モデルラットは、心臓の左心室にある左冠状動脈を糸でしばって虚血状態にしたものであり、(財)動物繁殖研究所(茨城県かすみがうら市)に作成を委託したものです。
SpO2の時間変動を計測した結果、Heガス吸入の場合にはSpO2に変化は殆どみられなかったのに比べ、プラズマ吸入の場合にはSpO2が83%→97%に増加する傾向がみられました。[図2]
SpO2改善の理由としては、血管拡張による酸素濃度の増加によるものであり、プラズマ吸入が心内膜虚血に起因した血流量の減少を改善できる可能性があることが示唆されました。
血圧測定の結果、プラズマ吸入では血圧の降下(最高/最低:89/81 mmHg → 73/60 mmHg)がみられました。更に、血液中NO濃度はプラズマ吸入開始から30秒後に増加を開始し、血圧の降下に対応して増加する傾向を示すことが判明しました。[図3]
また、比較のために行なった高濃度NOガス吸入においても血圧の降下がみられ、一般的に報告されているNOによる血管拡張作用に起因した血圧降下が計測されました。
ゆえに、プラズマ吸入と高濃度NOガス吸入では、同様の血圧変動がみられたことから、NOに起因した血圧降下であると考えています。特に、実験に使用したシリコンチューブ長L = 1000 mmの先端においても、3.6 - 6.1 ppmのNOが検出されています。[図4]一般的に、「NO吸入療法」に用いる高濃度NOガスの濃度は10 - 20 ppmの範囲で使用しますが、肺内に到達した時点でその濃度は1/10以下になると思われます。ただし、プラズマ吸入の場合、吸入終了後にもNO濃度が増加しているため、肺から吸収されたNOだけではなく、肺胞内の肺上皮細胞もしくは血管内皮細胞で産出されたNOも大きく寄与しているものと考えています。

  

  

【学会報告】
本研究の成果は、「英国物理学会出版局のオンラインジャーナル「IOP science」にて公表されています。
著者:Chihiro Tsutsui, Minjoo Lee, Genu Takahashi, Shigeru Murata, Takamichi Hirata,
Takao Kanai and Akira Mori
論文題名:Treatment of cardiac disease by inhalation of atmospheric pressure plasma
ジャーナル名:Japanese Journal of Applied Physics, Vol.53, No.6,060309 (2014)
DOI番号:doi:10.7567/JJAP.53.060309


東京都市大学工学部医用工学科平田孝道ら研究グループ記者説明会の様子

  

  


【東京都市大学工学部医用工学科について】

東京都市大学工学部医用工学科は、医学の諸問題を工学的なアプローチで解決しようとする新しい学問について、臨床器械工学、知覚システム工学、生体計測工学、生体認知工学の4分野で専門性を高めながら、人類の健康に関わる新技術の創造にチャレンジできる、高い理想を持った複合技術エンジニアを養成しています。学際的な知識・技術を獲得するだけでなく、優れた倫理観の醸成にも注力し、“尊い命”に係わる新技術の創造を目指していきます。


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